システム内製化という時代の流れについて


元SIerという立場として最近のトレンドである「システム内製化」について触れておきたい。ただ、本音を先に言っておくと、この件にはあまり触れたくはない。ただのバズワードで数年後には跡形もなく消え去っていると思うからだ。

それと以下はあくまでも私の個人的な見解だということも先に述べておく。鵜呑みにしないように。




「システム内製化」とは何か?



まず話題になっているシステム内製化について概要を説明しておく。

今まではユーザ企業がSIerに丸投げしてシステムを作っていた。だが、高いし、ノウハウが社内に貯まらない等々のユーザ企業サイドの理由により、ユーザ企業がSIerから離れ、自社内でシステムを作ろうという流れが近年活発化している。これをシステム内製化として世間が騒いでいるのだ。

そしてこれが求人市場にも影響が出始めている。ユーザ企業のエンジニア募集が増えてきているのだ。これによってSIerからユーザ企業への転職という流れができ始めているらしい。

システム内製化の背景


全ての業種において、ITの存在を無視できなくなったのが最初のきっかけだと思う。どんな業種であれ、ITがないと業務が回らなくなってきている。だからと言って自社独自のシステムを作るわけにはいかない。SIerに依頼すると高いからだ。なので大手企業はともかくとして、ITに設備投資する余裕のない中小零細企業は大企業の真似をできるはずもなく、指を咥えて見てきた。

それが近年のIT技術の進歩により、簡単にアプリケーションが作れるという事が判ってきた。スマホやタブレットのアプリ、PHPやjsで作られたWebアプリケーション等々。個人レベルでも作れるのだから自社内で作れるんじゃないの?という風潮になってきたところで大手企業が内製化に踏み切ったらうまくいった。それじゃ中小零細でもやってみましょうか。みたいなのが大雑把な流れだと思っている。

要は開発が容易なんだから内製する人を雇って内製してしまえ、という「安易」な考えが、この「システム内製化」の流れを作っている根幹の考え方だ。

この考え方自体は間違っているとは言えない。実際、SIerなんて業種が存在しているのは日本ぐらいで、他の国では内製が当たり前である。日本だけが特殊な環境になっている。

自社の業務内容を自社でシステム化するのは非常に理にかなってるし、それが出来るのであれば申し分ない。

システム内製化の今後の流れ


まず、システムの完全内製化は出来ないと思う。SIerでさえ下請けのエンジニアを使って分業化してシステムを作っているのに、ユーザ企業が同じ規模の人材を抱えられるほど余裕は無いはずだ。SIerでさえ内部技術者を抱えきれないので下請けを使っているという事実を無視している。大手SIerやベンダーはバブル崩壊時に内部に抱えていた大量のSEをリストラした経験を持っている。なので同じ轍を踏まないように細心の注意を払って今の体制になっている。

よくシステム内製化の話題で聞くのが「アメリカでは内製が当たり前」みたいな論調だけども、現在の日本の雇用制度だと、一度雇った社員は簡単に辞めさせることはできない。海外はそれが出来るからエンジニアを集めてシステムを内製して必要なくなったらレイオフしている。日本の企業ではそれが出来ない。これが海外と日本の大きな違いである。

なので、完全内製ではなく、SIerが担っていた上流工程だけを内製して、実際の開発はアウトソーシングするというのが現実的な流れになる。そこで問題なのだけど、果たしてそんな簡単にうまくいくと本当に思っているのだろうか?

上流工程をこなせる技術者がそこら辺にゴロゴロしていたら、IT業界は人手不足になんてなっていない。そもそも技術者の絶対数が足りていないのに上流工程を担える人材がユーザ企業に入るだろうか?それなのに、システム内製化をしている企業は人材を確保しているという話も聞く。なぜだろうか?

ここで更に嫌な流れというか、これがシステム内製化で湧く転職市場での人材の動きに繋がっていると思えるのが、特定派遣の廃止だ。2018年の9月で特定派遣は経過措置期間が終わり廃止になる。特定派遣専業でやっていた企業は会社をまるごと他社に譲渡したり、リストラに励んでいる所も多いだろうけど、そこから流出したエンジニアがこのシステム内製化の流れにのってユーザ企業に入っているフシがある。

特定派遣のエンジニアの技術力が低いとは言わない。でもエンジニアとしての技術力と上流工程の技術力は別物である。そして、特定派遣のエンジニアで上流工程をこなせる人材はかなり少ない。上流工程をこなせる時点で普通にSIerに就職できるので、余程の変わり者以外特定派遣なんかやっていない。

この人手不足の現実と特定派遣の廃止という流れから考えるに、システム内製化はアウトソースされた企業でデスマの嵐になると思う。内製した上流工程で問題が多発するのが目に見えてるからだ。上流工程で失敗しているシステムですんなり開発が終わった物を見たことがない。

2020年ぐらいにはシステム内製化の流行は収まっているはず


結局、システム内製化という流れは、ちゃんとした技術者を確保できた、ごく一部の企業以外は失敗すると思う。ただ、開発費が高いSIerにユーザ企業が戻るとも思えないので、今後はWeb系企業の殻を被った新SIerがメインストリームになっていくのだと予想している。

旧SIerはクラウドのインフラを提供する企業に変貌したり、Webサービスを提供していく形になっていくのだろう。そうなるとWeb系企業と市場を争うことになり、今度は資本力で勝る旧SIer勢と小回りが利くWeb系企業との争いになるのだと思うのだけど、これはまた別の話。