IT業界の仕組みを知っていますか?


IT業界はよくゼネコン構造に似ていると言われますが、実際のところはどうなのか説明してみたいと思います。



以下の図は典型的なSIerの仕事の流れになります。


  1. まずお客様の偉い人(と、いれば社内IT担当者。いわゆる社内SE)とSIerの営業とPM等の権限が上の人と場合によってはPLとで予算と大体の仕様について話します。SIerはお客様の話からシステムを提案し、お客様が予算と提案されたシステムで合意できたらスタートになります。
  2. PMとPLとSEとお客様側の社内SEとお客様側業務担当で要件を纏めていきます。いわゆる要件定義です。要件定義の内容をお客様と確認して、双方で認識に食い違いが無いかを詰めていきます。
  3. 要件定義の内容についてお客様から承認を得られたらそこから基本設計を作ります。基本設計は主にPLとSEで作成します。プログラム開発以外にもサーバインフラ、ネットワーク、場合によってはDBのチームやWEBデザイナ等の様々なチームがこの作業を行います。ここまでが上流工程と言われる部分です。
  4. 基本設計を作成し、お客様から承認をもらったら、基本設計を元に詳細設計を作成します。この作業はSEが主体になって行います。
  5. 詳細設計についても承認をもらったら、その詳細設計を元に実作業を行います。プログラマはプログラムを書き、サーバエンジニアはサーバ構築をし、ネットワークエンジニアはルータの設定と配線を行います。
  6. 各チームで詳細設計通りの実装が終わったらテストを行います。大体のテストの流れは単体テスト(UT)→結合テスト(IT)→システムテスト(ST)→運用テスト(OT)
  7. 最終的に受け入れテストをして各設計書と共に納品になります。場合によってはシステムのトレーニングや運用や保守も請け負ったりもします。

ざっくりと典型的なケースを説明してみましたが、実際はこの通りにはまず進みません。PMはともかくPLとSEの線引が曖昧であったり、プロジェクトの規模次第でPLが複数人いることも多く、設計書類を書かないPLやプログラミングできないSEもいたりします。

仕変(仕様変更)はなぜ起きるのか


この一連の流れで一番重要なのは2の要件定義です。ここで狂うとプロジェクトが最後まで狂います。いわゆる仕様変更が頻発するプロジェクトと言うのはこの要件定義が甘いプロジェクトに多いです。


お客様はITに関しては素人だから仕事を依頼しているのであって、何も判らないから基本的にはSIerの提案に頷きがちです。ですので、その素人相手にPMやPLが半ば騙す様に仕様を押し付けてしまうということが稀に起きてしまいます。そうすると出来上がり近くになってお客様から「思っていたものと違う・・・」と仕様変更の依頼が出てきてしまい、末端エンジニアが仕様変更の嵐に見舞われて、いわゆるデスマーチ状態に陥っていくのです。ですので要件定義の時点でしっかりと双方で認識を合わせておく事が非常に大事になります。


どこら辺がゼネコン構造なの?


一般的にゼネコン構造と言うのは、大企業が仕事を請けて、その仕事を(場合によっては複数の)下請け会社に請け負わせ、その下請け会社がさらに下請け会社(孫請け)に請け負わせ・・・という連鎖構造の事を言います。これには理由があります。建築業界と言っても様々な業種の仕事が絡み合っているからです。

家を建てる場合を考えてみてください。家自体を建てるのは大工さんですが、実際は左官屋さんが壁を塗ったり、電気工事の人が配線したり、設備屋さんがキッチンを取り付けたり、他にも水道屋さんやガス屋さん等々、複数の業者が関わって一件の家が出来上がります。

IT業界の場合も同じで、プログラム以外にも、サーバを構築したり、ネットワークを構築したりと、複数の要素が組み合わさって一つのシステムが出来ています。この様なシステムを作る企業をSIer(System Integrater:システムインテグレーター)と言います。

大手SIerがお客様から仕事依頼され(営業、PM、PL)、自社で賄えない仕事を下請け・孫請け会社(SE、PG)に依頼する構造になってます。もちろん自社で全て賄える会社もありますが、全ての人員を自社人員で構成できているプロジェクトは小規模な物を除けばまず無いと言っていいでしょう。そのぐらいこの下請け・孫請け構造が当たり前になっています。

ゼネコン体質とITブラック企業


この企業の下請け・孫請け構造だけであればいいのですが(あまり良いとも言えませんが・・・)、更にその下請けや孫請け企業で働いている人員がその会社の下請け会社社員であったり、更にその下請け会社の社員だったり、更にその下請け会社の・・みたいな連鎖をしている場合があります。このパターンは偽装派遣や偽装請負や多重派遣と言って大体が違法(ちゃんと下請法に則ってやっている合法な会社もあります)です。

私が知ってる限り、一番凄かったので7次請けと言うのがありました。かなり興味深かったので、元請け会社のPMとお酒の席でオフレコで聞いて確認したところ、元請け会社はその人員に150万払っていて、その人員に聞いたら給料は額面25万でした。150万が最終的に25万になってしまいます。つまり125万のマージンを(その人員の所属してる会社にいくら入っているかは判りませんが)間に入っている6社でピンはねしている事になります。

一般的に人員を出している会社が一番抜きますが、これがいわゆるITブラック企業という奴です。昔の建築業界にいた「請負師」や「口入れ」「人貸し」と言ったマージンを抜くだけの人と似ている事から、このブラック企業を指してゼネコン体質と言ったりもします。


なぜこの様な事になってしまうかといいますと、大手SIerの仕事を請け負うにはその会社と取引の口座を開く必要がありますが、中小零細企業はまず相手にしてもらえません(現在はそこまで厳しくもないらしいです)。ですので、それなりの規模と実績を持っている企業だけが大手SIerの口座を開くことが出来ます。

ですがその会社も全ての仕事を請け負えるだけの人員を確保している訳ではないので、「口座貸し」という形でマージンを取って下請け企業に流してしまいます。それが連鎖する事でマージンを抜くだけの企業が複数社に渡って間に入って、ブラック企業同士がお互いに仕事と人員を融通しあって安価で雇った人員を動かして稼ぐという何とも言えない利益構造になっています。そして違法でありながらそれが常態化しているのもまた事実です。なぜなら常に「人手不足」だからです。

なぜ人手不足なのか


昔、人材派遣会社のシステム構築をやった事があります。その時ドキュメントに「人材」と書いてお客様から怒られました。「人材」ではなく「人財」だと、人は材料ではなく財産なのだから「人材」ではなく「人財」と必ず書いてくださいと厳しく指摘されました。なるほどなぁ、と思ったりもしましたが、今のIT業界(特にITブラック企業)では「人財」ではなく「人材」だと言って良いでしょう。人員は仕事を遂行する材料であって、会社が持つべき財産とは(一部の人員を除いて)思われていないように思います。


というのも、IT業界では仕事は常にあるものではなく、プロジェクトが無い時に人を雇っているとその人は「人財」どころか会社にとっての「負債」に成りかねません。仕事が無くても給料は支払わなければならないからです。ですので、大企業はあまり自社の技術要員を増やしません。あえて「人手不足」の状態を作り上げています。

自社の社員で人員を賄うのではなく、必要な時だけ人員を調達できる下請け・孫請けを有効に活用してシステムを構築するのです。でも、下請け・孫請け企業も仕事が無い時はその人員に支払う給料が無いため、稼げる時にその給料分を社内にプールしておく必要が出てきます。ですので大企業は高いお金を下請け・孫請けに支払います。そしてその高い人件費がシステムの構築費用としてお客さんの支払う代金に乗っかってきます。日本のIT業界の作るシステムが高い一因がここにあります。


そして「ITは儲かる」というのもここからきています。ブラック企業で働く人はほとんどがマージンで抜かれているので労働に見合った給料は貰えなかったりしますが、ちゃんとした企業で働く人は、例え下請け・孫請け企業であったとしても、正当な評価をされていれば普通のサラリーマンとは比較にならないぐらい稼げます。あくまでも正当な評価をされ得る技術力がある場合に限りますが。

正当な評価をされるにはどうすればいいのか?


まず自身の能力を上げましょう。それが絶対条件です。

そして、自身の能力に見合った給料の相場を把握しましょう。これが出来てない人が非常に多いです。当たり前と言えば当たり前なのですが、自分の技術でどれだけ会社に利益をもたらしているのかは会社はあまりオープンにしてくれません。

ですので、求人情報を常にチェックして、自分の能力で世間の会社はどれぐらいの給料を払ってくれるのかというのを常にチェックしておくべきです。そして相場と比較して自身の給料が安いと思えるのであれば、遠慮せずに会社と給与交渉しましょう。

給与交渉は大企業だとまず無理ですが(その代わり最初から高い給与を貰ってると思います)、中小零細企業だと意外と応じてもらえます。下請け・孫請けをやっている中小零細企業であればあるほど技術力のある社員というのは高い給料を支払う価値があります。技術力が無い会社だと元請けに認識されてしまうと仕事が降りてこなくなるからです。


そして給与交渉に応じてもらえない場合は正しく評価してくれる会社に迷わず転職するべきです。給料はあなたの仕事の対価です。給料が安いという事は、本来受けるべき評価を会社はあなたにはしていないという事です。技術力で稼ぐ仕事なのですから、絶対にその部分で妥協はするべきではありません。

例えアットホームで居心地の良い会社で「会社に悪いから給与交渉なんてしたくないなぁ」と思ったとしても、プロの技術者として自分自身の技術にプライドを持って、ちゃんとした評価をして貰える様に会社に言わなければ駄目です。技術者が自分の持っている技術に自信を持てないからこそブラック企業が存在してしまうという事を理解してください。技術者の自信のなさにつけこんで、相場を無視した安価な給料で技術者を食い物にして儲ける会社を許してはいけません。IT業界の健全化の為にも絶対に自分の技術を安売りしないでください。


本来、会社にとって社員は宝です。社員が働くからこそ会社という組織は利益を上げることができ、成り立っているのです。「人材」ではなく「人財」として扱ってくれる会社へ転職するのが自分自身の為にベストなはずです。奴隷では無いのですから。